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福井地方裁判所武生支部 昭和63年(ワ)4号 判決 1993年5月25日

原告

岩尾勉

原告

大塚久司

原告

大森満一

原告

木下鴻洋

原告

佐々木吉信

原告

出口国夫

右原告ら訴訟代理人弁護士

吉川嘉和

被告

福井鉄道株式会社

右代表者代表取締役

織田廣

右訴訟代理人弁護士

前波實

主文

一  被告は、原告岩尾勉に対し、金三三万二九九三円及び内金一八万一〇〇〇円に対する昭和六三年一月一日から、内金一五万一九九三円に対する平成五年一月一日から、それぞれ支払い済みまで年五分の割合による金銭を支払え。

二  被告は、原告木下鴻洋に対し、金七五万二二〇〇円及び内金二八万四一〇〇円に対する昭和六三年一月一日から、内金四五万三八〇〇円に対する平成五年一月一日から、それぞれ支払い済みまで年五分の割合による金銭を支払え。

三  被告は、原告佐々木吉信に対し、金七〇万九〇〇〇円及び内金二八万四一〇〇円に対する昭和六三年一月一日から、内金四一万二六〇〇円に対する平成五年一月一日から、それぞれ支払い済みまで年五分の割合による金銭を支払え。

四  被告は、原告出口国夫に対し、金三八万九一五〇円及び内金一七万七二五〇円に対する昭和六三年一月一日から、内金二〇万六四〇〇円に対する平成五年一月一日から、それぞれ支払い済みまで年五分の割合による金銭を支払え。

五  原告大塚久司及び原告大森満一の請求をいずれも棄却する。

六  原告木下鴻洋、原告佐々木吉信及び原告出口国夫の平成五年三月以降に生じるとする将来の損害賠償請求の訴えをいずれも却下する。

七  原告岩尾勉、原告木下鴻洋、原告佐々木吉信及び原告出口国夫のその余の請求をいずれも棄却する。

八  訴訟費用については、原告岩尾勉、原告木下鴻洋、原告佐々木吉信及び原告出口国夫と被告との間に生じた費用は、これを五分し、その四を同原告らの負担、その余を被告の負担とし、原告大塚久司及び原告大森満一と被告との間に生じた費用は、全部同原告らの負担とする。

九  この判決は主文第一ないし第四項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求の趣旨

一  被告は、原告岩尾に対し、金二二一万六六六五円及び内金六一万七九五八円に対する昭和六三年一月一日から、内金一一八万七一六七円に対する平成五年一月一日から、それぞれ支払い済みまで年五分の割合による金銭を支払え。

二  被告は、原告大塚に対し、金一九六万二七五三円及び内金五六万三〇一三円に対する昭和六三年一月一日から、内金九三万六五四〇円に対する平成五年一月一日から、それぞれ支払い済みまで年五分の割合による金銭を支払え。

被告は、原告大塚に対し、平成五年一月以後毎月二五日限り一万一二二〇円を支払え。

三  被告は、原告大森に対し、金二〇五万七八七五円及び内金六九万三二三一円に対する昭和六三年一月一日から、内金八八万二二四四円に対する平成五年一月一日から、それぞれ支払い済みまで年五分の割合による金銭を支払え。

被告は、原告大森に対し、平成五年一月以後毎月二五日限り一万〇二〇〇円を支払え。

四  被告は、原告木下に対し、金二六五万九八五四円及び内金八二万九四九九円に対する昭和六三年一月一日から、内金一二一万七七五五円に対する平成五年一月一日から、それぞれ支払い済みまで年五分の割合による金銭を支払え。

被告は、原告木下に対し、平成五年一月以後毎月二五日限り一万四九一〇円を支払え。

五  被告は、原告佐々木に対し、金二六六万四三九〇円及び内金八五万〇一九〇円に対する昭和六三年一月一日から、内金一一九万〇二〇〇円に対する平成五年一月一日から、それぞれ支払い済みまで年五分の割合による金銭を支払え。

被告は、原告佐々木に対し、平成五年一月以後毎月二五日限り一万四一〇〇円を支払え。

六  被告は、原告出口に対し、金三七四万八九七一円及び内金一三九万三二七一円に対する昭和六三年一月一日から、内金一四七万七三〇〇円に対する平成五年一月一日から、それぞれ支払い済みまで年五分の割合による金銭を支払え。

被告は、原告出口に対し、平成五年一月以後毎月二五日限り一万六三四〇円を支払え。

第二事案の概要

一  当事者間に争いがない事実

1  原告岩尾は、平成四年九月一〇日まで被告に勤務する労働者であった。その他の原告らは、被告に勤務する労働者である。

被告は、鉄道、バス等の運送事業、観光事業等を営む会社である。

2  被告が従業員に支払う賃金は、毎月二五日支払いで、基本給と各種手当からなるが、毎年四月のベースアップは基本給について行われ、ベースアップの内訳は、次のようになっている。

A 基礎配分 全員一律に決まる

B 年齢配分 年齢に応じて決まる

C 勤続配分 勤続年数に応じて決まる

D 職級配分 職級に応じて決まる

E 基本給比例配分 前年度の基本給に一定係数を乗じて決まる。

F 人事考課配分 人事考課に応じて決まる

3  右Fの人事考課配分は、個々の従業員の人事考課によって決まるが、一五点を平均として一一点から一九点までの人事考課がなされ、考課点に応じた金額が配分される。昭和五八年から平成四年までの被告の従業員の考課状況は、別紙第1表(人事考課分布表)(略)のとおりであり、各評点の人事考課給の金額は別紙第2表(金額配分分布表)(略)のとおりである。

原告らの考課状況は、全体としては、別紙第1表に括弧書で記載したとおりであり、原告それぞれの人事考課給は、別紙第3(略)ないし第8表(略)の「原告の受給額」欄記載のとおりである。

二  原告らの主張

1  原告らは、人事考課において、最低又は最低に近い考課をされている。原告らの勤務能力や勤務態度は、少なくとも被告の平均的労働者を下回ることはないから、この考課は、原告らが、職場において労働者の権利を主張し、被告の従業員で組織する労働組合において組合方針に批判的な少数活動家として活動し、日本共産党を支持していることを理由とするものである。すなわち、思想信条を理由とする差別的取扱いである。

2  原告らは、本来少なくとも人事考課配分の平均額は受給できるはずであるが、差別的取扱いを受け続けたため、昭和六〇年四月現在で同期入社・同職種の従業員に比べて、基本給が相当低額になっており、昭和五八年から平成四年にかけての人事考課でも差別的取扱いを受けたため、給与格差が拡大し、今後も格差が継続することが明らかである。

その結果、原告らは、給与格差相当分の損害を受けているが、各原告の具体的損害は、以下のとおりである。

3  原告岩尾

昭和二二年入社で、職種は運転士、昭和五二年七月以後は技工兼運転士である。

同期入社・同職種の従業員は、中嶋敏章だけであり、昭和六〇年四月現在での両者の基本給は、次のとおり六二七〇円の格差がある。

中嶋敏章 二五万一二五〇円

原告岩尾 二四万四九八〇円

原告岩尾は、本来平均の人事考課給を受給できるはずであったから、平均額と実際に受給した金額との差額が損害になり、昭和六〇年四月の六二七〇円を基準として、それ以前は前年度までの差額を控除することにより、それ以後は毎年の差額を加算することにより、その年の毎月の損害額が算定される。毎年の損害額は、一年の賃金が夏・冬の一時金を併せて一七か月分であるので、月差別額を一七倍して算定する。このようにして算定した金額を合計したものが、昭和五七年から平成四年までの総損害額である。

また、原告岩尾は、平成四年九月に退職したが、退職金についても差額に対応する損害が発生している。

遅延損害金については、昭和六二年分までの損害については昭和六三年一月一日から、それ以後の損害については平成五年一月一日からそれぞれ請求する。

弁護士費用も右損害額の一割相当請求する。

さらに、差別が継続することにより昭和六三年一月以降退職するまでに毎月発生した損害も請求する。

このようにして算定した金額が、原告岩尾の損害となるが、その明細は別紙第3表(原告岩尾の損害請求表)のとおりであり、総額二二一万六六六五円となる。

4  原告大塚

昭和三八年入社で、職種はバス運転手である。

同期入社・同職種の従業員は、次の八名であり、昭和六〇年四月現在の基本給は、次のとおりである。

<1> 水野重治 二〇万一六二〇円

<2> 山下光之 二〇万二九四〇円

<3> 田中良夫 二〇万三一〇〇円

<4> 国兼具美 二〇万二二九〇円

<5> 岸本善一 一九万七八三〇円

<6> 上田満 二〇万三七四〇円

<7> 山下学 一九万七三一〇円

<8> 三田村雄二 一九万九七九〇円

平均額 二〇万一〇七〇円(一〇円以下切捨て)

原告大塚の昭和六〇年四月現在の基本給は、一九万五三五〇円であり、右八名の平均額とは五七二〇円の格差がある。

そこで、五七二〇円を基準に損害額を算定するが、算定方法は、原告岩尾と同様である。ただし、退職金の損害はなく、将来の損害として平成四年当時の差別額に基づき平成五年一月以後も請求する。その明細は、別紙第4表(原告大塚の損害請求表)(略)のとおりであり、総額一九六万二七五三円及び平成五年一月以後毎月一万一二二〇円となる。

5  原告大森

昭和二三年入社で、職種は、電車車掌、昭和五三年一〇月から駅務係である。ただし、身分上は昭和五五年四月から福鉄観光社に移籍している。

同期入社・同職種の従業員は、林正だけであり、昭和六〇年四月現在での両者の基本給は、次のとおり六八四〇円の格差がある。

林正 二一万三七六〇円

原告大森 二〇万六九二〇円

そこで、六八四〇円を基準に損害額を算定するが、算定方法は、原告大塚と同様である。その明細は、別紙第5表(原告大森の損害請求表)(略)のとおりであり、総額二〇五万七八七五円及び平成五年一月以後毎月一万〇二〇〇円となる。

6  原告木下

昭和三八年入社で、職種はバス運転手である。

同期入社・同職種の従業員は八名であり、その氏名は原告大塚と同様で、これら八名の昭和六〇年四月現在の基本給平均額は、二〇万一〇七〇円である。原告木下の同現在の基本給は、一九万二八六〇円であるから、八二一〇円の格差がある。

そこで、八二一〇円を基準に損害額を算定するが、算定方法は、原告大塚と同様である。その明細は、別紙第6表(原告木下の損害請求表)(略)のとおりであり、総額二六五万九八五四円及び平成五年一月以後毎月一万四九一〇円となる。

7  原告佐々木

昭和三九年入社で、職種はバス運転手である。

同期入社・同職種の従業員は、助田一郎だけであり、昭和六〇年四月現在での両者の基本給は、次のとおり八四〇〇円の格差がある。

助田一郎 一九万六二一〇円

原告佐々木 一八万七八一〇円

そこで、八四〇〇円を基準に損害額を算定するが、算定方法は、原告大塚と同様である。その明細は、別紙第7表(原告佐々木の損害請求表)(略)のとおりであり、総額二六六万四三九〇円及び平成五年一月以後毎月一万四一〇〇円となる。

8  原告出口

昭和四〇年入社で、職種はバス運転手である。

同期入社・同職種の従業員は、次の三名であり、昭和六〇年四月現在の基本給は、次のとおりである。

<1> 細川健治 一九万一五一〇円

<2> 伊藤久夫 一九万六四四〇円

<3> 八田勇 二〇万〇二七〇円

平均額 一九万六〇七〇円(一〇円以下切捨て)

原告出口の昭和六〇年四月現在の基本給は、一八万二八三〇円であり、右三名の平均額とは一万三二四〇円の格差がある。

そこで、一万三二四〇円を基準に損害額を算定するが、算定方法は、原告大塚と同様である。その明細は、別紙第8表(原告出口の損害請求表)(略)のとおりであり、総額三七四万八九七一円及び平成五年一月以後毎月一万六三四〇円となる。

9  結論

よって、原告らは、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、右損害を請求する。

三  被告の主張

1  被告においては、労働組合との協定により、昇給分の一割を人事考課によって配分している。

人事考課は、一般職においては、人事考課評定要領に基づき、一一点から一九点の九段階に分けて、中間の一五点が最も多く、それ以上とそれ以下がそれぞれ段階的に少なくなるように相対評価を行っている。評定方法は、現場の監督職が第一次評定を行い、部署長が第二次評定を行い、最終的に人事部長が部署間の調整を行っている。

2  このように、被告の人事考課は、要領に基づき、人物を総合的にかつ相対的に評価して適切に行なわれている。相対評価である以上、原告らの自己評価と異なる考課がなされることはあり得ることであるが、自己評価と異なっているからといって、これを思想・信条による差別だと主張するのは、独自の判断と固定観念による反発にすぎない。

四  本件の争点は、原告らの低い人事考課が、思想・信条を理由とする差別的扱いであるかどうか、仮にそうであるとすれば原告らの損害額である。

第三争点に対する判断

一  被告の人事考課の方法について

(証拠・人証略)によれば、以下の事実が認められる。

1  被告の人事考課は、年一回行われるが、その方法については、遅くとも昭和五八年までに人事考課評定要領が作成されて、一般職では次のように行われている。

2  評定順序としては職場長が一次評定を行い、所属部課長が二次評定を行い、最終的に人事部長が各部門の調整を行う。評定項目は技能と誠実の二点であり、技能は、仕事の成績、知識、潜在力に着眼して、七ないし一三点の七段階で評価し、誠実は、命令遵守、かげひなたの有無、協調性、愛社心に着眼して、四ないし六点の三段階で評価する。評定方法としては、被評定者を上・中・下の三グループに大別し、約半数を中位として一四ないし一六点に評点し、上位の者は一七点以上に、下位の者は一三点以下に評点する。結果的には一一点から一九点までに評点されるが、一五点が最も多く、その上下にピラミッド型に分布し、一一点と一九点が最も少なくなるように評点される。

二  そこで、原告らの人事考課が、思想・信条を理由とする差別的扱いであるかどうかについて判断する。

1  基本的な考え方

本件は、原告らが、人事考課において思想・信条による不当な差別的扱いを受けたことを理由として、賃金差額分の損害賠償を請求するものであるから、原告らは、勤務成績が平均的従業員と同等であったにもかかわらず、不当な差別的扱いを受けたことを個別的に立証する必要がある。しかし、人事考課は、その性質上使用者の裁量に属しており、かつ様々な要素を考慮して相対的かつ総合的に評価するものであって、従業員である原告らが被告の人事考課全体を把握することは事実上困難であることを考慮すると、原告らが勤務成績が平均的従業員と同等であったにもかかわらず、不当な差別的扱いを受けたことを直接立証することはほとんど不可能である。

そこで、この判断方法としては、原告らの人事考課が同職種の平均的従業員と比べて低位であること、被告が原告らの思想・信条を嫌悪し差別意思を有していることが認められれば、原告らが思想・信条による不当な差別的扱いを受けていると一応推認し、次に、原告らに低い人事考課をしたことについて使用者の裁量を逸脱していない合理的事由が認められるかどうかを検討し、そのような合理的事由が認められなければ、原告らの勤務成績が平均的従業員と同等であったにもかかわらず、不当な差別的扱いを受けたと認定すべきである。

以下、このような考え方により、検討する。

2  原告らの人事考課が同職種の平均的従業員と比べて低位であるかどうかについて

当事者間に争いがない事実によれば、昭和五八年から平成四年までの期間(以下「本件期間」という)の人事考課は、一五点が最も多く、次に一六点、その次に一四点又は一七点が多くなっており、一三点以下は約二〇パーセント以下で少ない。本件期間の内、昭和五八年から昭和六二年にかけては、原告らの人事考課は全て一三点以下になっており、昭和六三年以後は一部の原告が一四点と評点されているが、多くの原告は一三点以下である。(人証略)によれば、被告においては職種間の人事考課分布に差異が生じないように調整していることが認められる。

したがって、本件期間における原告らの人事考課が同職種の平均的従業員と比べて低位であったことは明らかである。

しかし、本件期間以前については、原告らの人事考課が同職種の平均的従業員と比べて低位であったかどうかは必ずしも明らかでない。

原告らは、同期・同職種の従業員の基本給と格差があることを主張し、(証拠略)によれば、原告主張のとおりの格差があることが認められる。(証拠略)によれば、被告従業員の毎年の定期昇給は、基礎給、勤続給、年齢給、職級配分給及び人事考課給等によって算定されており、この内基礎給と勤続給は同期・同職種の従業員は全て同額になるが、年齢給と職級配分給については、同期が同年齢・同職給とは限らないことから微小な差異が生じ、人事考課給については各人によって相当の差異が生じることが認められる。

したがって、原告らは、長期的にみると同期・同職種の従業員と比べてこれまで人事考課給が低位であったことは明らかであるが、原告らが比較対照している同期・同職種の従業員は、原告岩尾、原告大森及び原告佐々木は一名、原告木下及び原告大塚は八名、原告出口は三名にすぎず、このような少人数では同期・同職種の従業員の勤務成績が平均的従業員と同等であると認定できない。もっとも、右認定ができないのは、被告が原告らの同期・同職種の従業員の勤務成績を明らかにしないことも影響しているが、被告の態度は人事機密の保持上正当なものである。同期・同職種の従業員の勤務成績は明らかでなくても、被告従業員全体の人事考課分布と原告らの考課状況が明らかになれば、本件期間以前においても、原告らの人事考課が同職種の平均的従業員と比べて低位であったことは認定しうるものである。

結局、本件期間における原告らの人事考課が同職種の平均的従業員と比べて低位であったことだけは認定できる。

3  被告が原告らの思想・信条を嫌悪し差別意思を有しているかどうかについて

原告らの各本人尋問の結果によれば、原告らは、入社年次や職種は様々であるが、日本共産党を支持し、かつては被告労働組合の役員として活動していたが、現在では労働組合において執行部の方針に批判的な少数派であることが共通していることが認められる。

そこで、被告が原告らの思想・信条を知り、これを嫌悪しているかどうかを個別的に検討する。

<原告岩尾>

(証拠・人証略)によれば、原告岩尾は、昭和五一年以後も何度か労働組合の執行委員選挙に立候補した(結果は全て落選)が、その際日本共産党と同様の政策を発表し、機関紙「赤旗」を職場で読むこともあるが、被告の管理職員から日本共産党の支持行動をすることは為にならない旨忠告されたことがあり、既に後輩が助役に昇進している状況で工場長の推薦を受けれないために助役昇進試験の受験自体ができないことが認められる。

右事実によれば、被告は、遅くとも本件期間においては、原告岩尾の思想・信条を知りこれを嫌悪しているといえる。

<原告大塚>

(証拠・人証略)によれば、次の事実が認められる。

原告大塚は、機関紙「赤旗」の切り抜きを職場のロッカーに貼っていたことがあり、職場で「赤旗」を読み同僚にも勧めている。昭和五〇年から五七年ころにかけて、原告木下らが配転命令を拒否し思想信条による差別であるとして裁判で争っていた際、原告大塚は木下らの支援活動をしていたが、管理職員から考え方を改めて支援活動を止めるよう何度も勧められた。原告大塚は、昭和五九年に勤務中の事故で三か月間減給一〇分の一の懲戒処分を受けたが、他の類似事故に比べて重すぎる処分であるとして提訴し、勝訴した。また、原告大塚は、昭和五九年に武生営業所から敦賀営業所に配転となり、昭和六一年には福井営業所に配転されたが、自宅に近い武生営業所への配転を強く希望し続けているものの、今日まで理由の説明はないまま実現しておらず、被告従業員の中でも自宅から遠い営業所に長期間勤務している稀な例になっている。

右事実によれば、被告は、遅くとも本件期間においては、原告大塚の思想・信条を知りこれを嫌悪しているといえる。

<原告大森>

(証拠・人証略)によれば、次の事実が認められる。

原告大森は、昭和四一年の武生市議会議員選挙の際、労働組合の選挙対策会議で共産党候補者の支持を明確に発言し、組合の推薦方針と異なっていたため、以後は選挙関係の活動に一切呼ばれなくなった。原告大森は、職場で「赤旗」を購読しており、職場に「赤旗」用の新聞受けを設置していたこともあり、日常的に自分の考えを上司にはっきり言っているが、昭和六〇年ころの忘年会で、上司から思想が感心しない旨言われたことがある。

右事実によれば、被告は、遅くとも本件期間においては、原告大森の思想・信条を知りこれを嫌悪しているといえる。

<原告木下>

(証拠・人証略)によれば、次の事実が認められる。

原告木下は、昭和五〇年に三方タクシー営業所への配転を拒否したため懲戒解雇され、思想・信条を理由とする不当な配転命令であるとして係争中、昭和五七年の和解により翌五八年に被告に復職した。原告木下は、一般職員の中で唯一の非組合員であり、上司や同僚からも特別視され、各種親睦行事に参加できず、時間外勤務の多い職場であるが原告木下には残業は命じられていない。また、原告木下は、昭和五八年から平成四年までの一〇年間、考課は最低の一一点であり、このような特に低い考課が続いているにもかかわらず、(人証略)の証言によれば、上司である同証人はその具体的理由を何ら説明しておらず、不自然という他ない。

右事実によれば、被告は、遅くとも本件期間においては、原告木下の思想・信条を知りこれを嫌悪しているといえる。

<原告佐々木>

(証拠・人証略)によれば、次の事実が認められる。

各種選挙の際には労働組合から組合員に対し支援候補者のための動員指示があるが、原告佐々木は組合支援候補者を支持していないことを社内の多くの従業員が知っているため、動員指示が全くない。昇進するためには、助役試験に合格することが必要であるが、人事考課の低い者は受験しても絶対合格しないと社内で噂されているため、原告佐々木は受験自体をしていない。

右事実によれば、被告は、遅くとも本件期間においては、原告佐々木の思想・信条を知っていることは明らかであり、特に明確な嫌悪行為はみられないが、同様の思想・信条を有している他の原告に対する態度からみて、原告佐々木を嫌悪しているといえる。

<原告出口>

(証拠・人証略)によれば、原告出口は、前記原告木下の配転拒否による懲戒解雇の訴訟で、原告木下を支援して裁判で証言したが、その際上司から原告木下を支援することを止めて考え方を改めたらどうかと忠告されたものの、それに従わなかったことが認められる。

右事実によれば、被告は、遅くとも本件期間においては、原告出口の思想・信条を知りこれを嫌悪しているといえる。

以上によれば、被告は、原告ら全員の思想・信条を知り、これを嫌悪しており、差別意思が認められる。

4  原告らの本件期間における人事考課が同職種の平均的従業員と比べて低位であること、被告が差別意思を有していることが認められたので、原告らが不当な差別的扱いを受けていると一応推認できる。

そこで、本件期間における原告らの人事考課について、使用者の裁量を逸脱していない合理的事由が認められるかどうかを個別的に検討する。

<原告岩尾>

(人証略)によれば、昭和五三年以後、原告岩尾の所属する車両工場の工場長である山形等は、原告岩尾を一〇名余りいる一般職員の内総合的にみて中位である旨評価していることが認められる。その他、原告岩尾に低い人事考課をした理由は何ら明らかでなく、逆に昭和六二年までは一貫して一三点以下の低い考課であったのに、本件訴訟が提起された昭和六三年から平成二年にかけては三年連続で中位の一四点に考課されており、本件訴訟の提起が影響したのではないかと窺われる面がある。

したがって、原告岩尾については、低い人事考課をしたことについて合理的事由が認められない。

<原告大塚>

(人証略)によれば、昭和六一年以後、原告大塚の所属する福井営業所の所長である同証人は、所長として着任したころ、原告大塚から時間外勤務をしないと申し入れられたため、労務課と協議した結果、原告大塚には時間外勤務を命じないことにしたが、この点を含めて総合的に評価した結果、原告大塚を低い考課にしたことが認められる。

原告大塚は、「福井営業所は本来二五名の配置のところ三名が欠員となっており、時間外勤務をせざるを得ない状況であるにもかかわらず、自分には時間外勤務をさせてもらえない」旨供述しているが、自ら時間外勤務をしない旨上司に申入れをした以上、時間外勤務が命じられないのは当然であって、差別的な取扱いではなく、時間外勤務をする意思があるのであれば、その旨上司に明確に申し入れるべきである。配属先が時間外勤務をせざるを得ない状況であるにもかかわらず、それを拒否することは業務の運営に若干の支障が生じることが明らかであって、運転技術や運転態度に問題はなくても、これをマイナス要素として低い考課をすることは、使用者の裁量の範囲内として許されると解すべきである。

したがって、原告大塚については、低い人事考課をしたことについて合理的事由が認められる。

<原告大森>

(人証略)によれば、昭和六二年以後、原告大森の所属する鉄道営業区の区長をしている同証人は、一般職八名の考課をしているが、原告大森については、名札の着用が義務づけられているにもかかわらず、注意しても名札の着用をしないことや、同僚・上司に対する言葉使いが乱雑で、女性客に対して乱雑に対応していたことを考慮して、中の下と評価し、昭和六三年から平成二年にかけては一四点の考課をしたことが認められる。なお、実際には、昭和六三年の原告大森の考課は一二点であるから、その年に限っては二次評定によって修正されたことになる。

原告大森は、乗客の女子高校生に対して卑猥な声をかけたことがあったり、名札を着用していないことは認めつつも、これらを考課に影響させるべきではない旨供述している。しかし、原告大森の職務は駅勤務であって、乗客と直接に接する部門であるから、乗客に対する言葉使いや名札の着用は些細なことではなく、これらをマイナス要素として低い考課をすることは、使用者の裁量の範囲内として許されると解すべきである。

したがって、原告大森については、低い人事考課をしたことについて合理的事由が認められる。

<原告木下>

(人証略)によれば、同証人は、昭和五六年以後、原告木下の所属する武生営業所の所長をしていることが認められるが、原告木下について、評価は下であるとしつつも、その具体的理由については何ら証言していない。

したがって、原告木下については、低い人事考課をしたことについて合理的事由は認められない。

<原告佐々木>

(人証略)は、武生営業所に所属する原告佐々木について、運転技能や態度に特に問題はないが、愛社心が低い他、貸切りバスの受注の獲得や会社斡旋の物品購入に不熱心であることから、総合的に評価は下である旨証言している。(人証略)によれば、被告は、自家用車の普及の影響で業績が低下しており、貸切りバスの受注や物品販売が貴重な収入になっているが、職場でこれらを積極的に奨励しているわけではなく、職員の約半数は貸切りバスの受注を取っていないことが認められる。

貸切りバスの受注や物品販売が被告の貴重な収入になっている以上、これらの成果を考課の一要素として考慮することは裁量の範囲内として許されるものの、これらは従業員の本来の義務ではなく、しかも積極的には奨励せず、多くの職員が熱心に取り組んでいるわけでもないことを考慮すると、これらの成果を重視することは裁量の範囲を逸脱しているといえる。また、原告佐々木本人尋問の結果によれば、同原告は、貸切りバスの受注や物品販売に全く協力していないわけではなく、あまり熱心でないというにすぎないことが認められる。そうすると、貸切バスの受注の獲得や会社斡旋の物品購入に不熱心であることだけでは、低い人事考課をした合理的事由としては不十分であり、他の事由もあることが必要であるが、その他の事由は認められない。

したがって、原告佐々木については、低い人事考課をしたことについて合理的事由は認められない。

<原告出口>

(人証略)によれば、原告出口の所属する福井営業所の所長である同証人は、原告出口について、総合的にみて中位であると評価していることが認められる。その他の証拠によっても、低い人事考課をした事由は明確でない。

したがって、原告出口については、低い人事考課をしたことについて合理的事由は認められない。

5  結論

原告岩尾、原告木下、原告佐々木及び原告出口については、本件期間の人事考課が思想・信条を理由とした差別的扱いであると認められる。

原告大塚及び原告大森については、本件期間の人事考課が思想・信条を理由とした差別的扱いであるとは認められない。

三  そこで、原告岩尾、原告木下、原告佐々木及び原告出口(本項でいう「原告ら」はこの四名を示す)の損害額について、基本的な考え方を検討する。

1  同期・同職種の従業員の平均基本給との差額を基準とすることについて

原告らは、昭和六〇年四月現在における同期・同職種の従業員の平均基本給との差額を基準として、損害計算を行っている。しかし、既に検討したとおり、原告らが同期・同職種の平均的従業員と比べて本件期間以前から勤務成績が同等であったことは立証されていないから、同期・同職種の従業員の平均基本給との差額を基準として、損害を認めることはできない。

2  一五点の考課給との差額を基準とすることについて

原告らの損害は、本件期間中の毎年のあるべき考課給との差額を基準として認められることになるが、毎年のあるべき考課給について、原告らは考課給の平均である一五点の金額を基準にしている。

しかし、原告らの本件期間における勤務成績が平均的従業員と同等であったこと、すなわち中位であったことは立証されたが、中位とは一五点だけではなく、一四点から一六点の範囲を意味しているから、原告らの勤務成績が一五点の成績と同じであったことまで立証されたわけではない。結局、少なくとも中位の最低線である一四点の成績とは同じであったことが立証されたにすぎず、あるべき考課給は一四点の金額を基準とすべきである。

3  将来の損害について

原告岩尾を除く原告らは、本件口頭弁論終結後の将来分についても損害を請求している。原告らの給与は、前年分に昇給金額を加算して決定されていくものであるから、本件期間中の差別額が是正されないと、将来にわたって他の従業員との格差が続いていくことは確かである。

ただ、民事訴訟法二二六条の将来の給付の訴えは、あくまでも例外的に認められているにすぎないから、継続的不法行為により将来発生する損害賠償請求については、請求権の基礎となる事実及び法律関係が既に発生し、その継続が予想されるとともに、将来の事情の変動が予め明確に予測できる事由に限られ、しかもこれについては請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ執行を阻止できるという負担を債務者に課しても不当とはいえない場合に限って認められると解すべきである。

本件の場合、被告が今後どの程度差別解消に取り組むかによって将来の損害は変動するから、将来の事情の変動を予め明確に予測することは困難であり、しかも請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ執行を阻止できるという負担を被告に課することは、公平とは言い難い。したがって、将来の損害請求の訴えについては、民事訴訟法二二六条の要件を欠いたものとして、不適法である。

四  そこで、原告ら個別の損害額を検討する。

1  原告岩尾の損害額

本件期間中の内、原告岩尾が在職中の毎年の一四点の考課給額と原告岩尾が受給した考課額との差額が、毎月の損害額になる。弁論の全趣旨によれば、被告においては、夏・冬の一時金をあわせて年一七か月分の給与が支給されていることが認められるから、右金額を一七倍した金額がその年の損害額になる。昭和五九年以後は、前年の差額の上にさらに差額が生じ、損害が累積していくから、前年分の上に加算した金額で損害を算定する必要がある。このような計算により、原告岩尾の損害額を算定すると、別紙第9表(原告岩尾の損害認定表)(略)記載のとおり、二九万二九九三円になる。

さらに、原告岩尾は、退職金の差額相当の損害についても請求しているが、本件証拠上は就業規則によって退職金の支給基準が明確に定められているかどうか明らかでないから、退職金の差額相当の損害は認められない。

2  原告木下の損害額

損害の算定方法は、原告岩尾と基本的には同じである。本件口頭弁論終結日が平成五年三月二三日であるから、本件期間の内平成四年度については、平成五年二月分までの一六か月分の限度で認められる。別紙第10表(原告木下の損害認定表)(略)記載のとおり、六八万二二〇〇円になる。

3  原告佐々木の損害額

損害の算定方法は、原告木下と全く同様である。別紙第11表(原告佐々木の損害認定表)(略)記載のとおり、六三万九〇〇〇円になる。

4  原告出口の損害額

損害の算定方法は、原告木下と全く同様である。別紙第12表(原告出口の損害認定表)(略)記載のとおり、三四万九一五〇円になる。

5  遅延損害金・弁護士費用

遅延損害金については、昭和六三年一二月までの分については平成元年一月一日から、平成元年一月から平成四年一二月までの分については平成五年一月一日から請求しているので、そのとおり認められる。なお、平成五年一月、二月分は請求されていない。弁護士費用についても、遅延損害金の区分に対応して請求しているので、本件訴訟の難易度を考慮して決定する。

原告らの弁護士費用については、次のように認めるのが相当である。

<昭和六三年までの損害>

損害額 弁護士費用

原告岩尾 一六万一〇〇〇円 二万円

原告木下 二五万四一〇〇円 三万円

原告佐々木 二五万四一〇〇円 三万円

原告出口 一五万七二五〇円 二万円

<平成元年から平成四年までの損害>

損害額 弁護士費用

原告岩尾 一三万一九九三円 二万円

原告木下 四一万三八〇〇円 四万円

原告佐々木 三七万二六〇〇円 四万円

原告出口 一八万六四〇〇円 二万円

五  結論

1  原告岩尾の請求は、三三万二九九三円及び内金一八万一〇〇〇円に対する昭和六三年一月一日から、内金一五万一九九三円に対する平成五年一月一日から、それぞれ完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

2  原告木下の請求は、七五万二二〇〇円及び内金二八万四一〇〇円に対する昭和六三年一月一日から、内金四五万三八〇〇円に対する平成五年一月一日から、それぞれ完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

3  原告佐々木の請求は、七〇万九〇〇〇円及び内金二八万四一〇〇円に対する昭和六三年一月一日から、内金四一万二六〇〇円に対する平成五年一月一日から、それぞれ完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

4  原告出口の請求は、三八万九一五〇円及び内金一七万七二五〇円に対する昭和六三年一月一日から、内金二〇万六四〇〇円に対する平成五年一月一日から、それぞれ完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

5  原告大塚及び原告大森の請求は全て理由がない。

6  よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 永野圧彦)

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